不動霊園拡張主意書
                              (大正11年起草)

 御座村爪切不動尊の霊現あるは既に世上に公許あるは更に茲に賛言を要せず。志摩国内の霊場として 空海巡錫の古跡として 脱俗の勝景地として 来賓あるもの実に四万人以上を莫するの盛況を呈し、尚年々増加の傾向を示しつつあり、之を以て当村有志先年池塘を改修し冷々たる美園を拓きしも 上述の繁盛は倒底多数の群衆を(に?)慰安を与ふるに足らざるのみならず却て狭隘を観ぜしめ不便を忍ばしむるの感ありき、然るに御木本眞珠王 屡々 来賓あり 遂に公衆のため宮ノ前浜より不動堂に通ずる車道を拓かし 又金比羅山頂を開拓して一大遊園地とせられ以て天下に絶景を紹介し 傍共存共楽の良策を遂行せしめた。
 将来、大公園を劃策しつつあり。由来崎島一帯の地は気候風土の優良なる点に於て、又風景の絶景なる点に於て縣内有数の地位を占む、曩には遲塚麗水、田山花袋、佐佐木信綱の諸大家の来杖せらりしあり、近くは博士山崎直方、穂積重遠、小坂代議士、中西逓信局長などの登山を見、特に畏くも華頂宮殿下の御微行を仰ぎ奉りし事ありてより 慥かにこの好景は我国三景を超越えたりとの評を博せり、之に加ふるに御座村,県下唯一の健康地、長寿地として旌表せられしを見れば 将来この地方は海産物の優良を以て鳴るの外、自然の楽土として衛生的の遊園地として普く全国的に知らるるに至らん。今や海陸交通の便漸く完備せんとするの秋、この機運に乗じて各般の設備を整え大に一般人士ノ来遊を歓迎せんとす。
 以上の理由によりこの計画の第一着手として霊園の拡張を敢行すべく 概 設計は 先 将来の参詣道を切換へ、旧神社地全部を附近畑山林一町一段余と共に開拓して清酒なる遊園地たらしめ来客諸氏の其快を倶にせんとす。
 而して是に要する諸経費約千円にして自村有志喜捨弐千円を得、目論見定まりたるも、残金の財源は之を求むるに途なく、止むを得ず、大方諸賢御同情に訴ふ。伏して冀くば上来の主旨御賛同の栄を垂れ給ひ偏に浄財の御喜捨あらんことを
     大正十一年 月 日
                                 右発起人
                                       勝峯 恵宏
                                       柴原太之助
                                       中村 俊雄
                                          外一同

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